「ヤザワ」の下の平等

 キリスト教には「神の下で平等」という教えがありますが、昔のヨーロッパに国王や皇帝がいたのは何故ですか?本当に「神の下で平等」という教えがあるならば教皇も皇帝も国王も領主も必要ないと思います。人間の中で上下関係を作るのはキリスト教の教えに反してるのではないですか?(Yahoo!知恵袋より)
 http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1256785917

 高校の同級生がイスラエルの大学で勉強に励んだりサークル仲間が仏師になっていたりするのに比べ、なんて私は宗教に疎いのだろう、いよいよ教養のない薄っぺらな人間が出来上がってきたと感じる連休の昼下がりですが、皆様、いかがお過ごしですか?

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 私は音楽とライブが大好きで年間20本〜30本近いライブを観に行きます。クラシックからJ−POP&ROCK、海外アーティストが揃うフェスまでジャンルもかなり幅広いです。(その辺は追って書いていくことになると思います)

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 しばしばミュージシャンの存在というのは圧倒的、熱狂的な支持のもと、「宗教」のような性格を帯びることがある。マイケル・ジャクソンやhide(ex.X JAPAN)が亡くなったときを思い出して欲しいのだが、その人の音楽をちょっと齧ったくらいでは分からない何かをファンは感じている。

 私が「彼」を観たのはWaterAid Fes (2009.9.26&27@横浜スタジアム)で、他の参加ミュージシャンはこんな感じだった。
 http://www.barks.jp/news/?id=1000051578
 (運営がグッデグデでイベント前から事務局に対するクレームがひどかったので、今はオフィシャルページがない。ひどい。)

 私は氷室氏と再結成したaccess、そしてBinecksというDAITA氏(ex.SIAM SHADE)がやっていたバンドを観に27日だけ参加する予定だったが、中学時代の同級生Z(♀)がこんな電話をしてきた。

「最近、『成りあがり』を読んで感動した!ヤザワがすごい!(…以下、ヤザワ語録がしばらく続く…)26日も観に行こうよ!!」 

 何をどうしたら「30歳を目前にして『成りあがり』を読んで感動した」という事態になるのか、彼女の未来に一抹の不安がよぎったが、もともとライブ好きの私はファンに長く愛され続ける彼を観てみたいと思い、26日も横浜スタジアムに行くことにした。

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 Zと集合すると、彼女は「ヤフオクでゲットした」という大きな大きなツアーグッズのバスタオルを肩から羽織って戦闘態勢に入っていた。

 通常のバスタオルよりも大きい。
 http://blog.livedoor.jp/barroom7/archives/1118858.html

 会場には氷室ファンよりもう少し上の世代の方々が思い思いの恰好をして(0830ナンバーのデコトラなどもあった)彼のステージよりだいぶ早くから集まっていた。Zは「すごい!みんな恰好がすごい!!」と騒いでいたが、そのうち「あの人たちと一緒に写真を撮りたい!」と言い出した。

 (その特攻服の方、白いスーツの方、寿司屋の大将みたいな方、革ジャンキメたリーゼントの方は、ディズニーランドのエントランスにいる彼らとは違うんだけど…)

 Zは次から次へと一緒に写真を撮りたいと声をかけた。少し戸惑う人もいたが、撮影には快く応じてくれて結局断られることのないまま何組かの方々と写真を撮った。しかし、驚いたのはこれだけではなかった。写真を撮り終えた後、写真撮影に応じてくれたファンの人全員が同じ台詞をZに言うのだ。

「おねぇちゃん、ヤザワ好きなの?」
(ヤザワになりたい人は「やゆよ」の発音の前に小さな"ィ"をつければいいと、後に登場するヤザワファンの男性から教わった。)

Zが

「ハイ!『成りあがり』を読んですごく恰好いいなって思って!聴き始めたばっかりなんですけど!バスタオルも買ってきたんです!」

と答えると、写真撮影に応じて下さった方々全員が同じ動作して、同じ台詞を言った。

「(手を差し出して)ヨロシク!」(がっちりと握手)

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 私はファン同士で仲良くすることの難しさを身に沁みて感じており矢沢ファンの行動に動揺した。氷室氏のライブに足繁く通うようになってだいぶ時間が経ったが、私の世代には氷室ファンなどまずいなかったこともあってインターネットが普及して多くのファン仲間ができるようになったことを当初はとても喜んでいた。しかし、1ツアーで1ファンサイトが炎上するなんて当たり前、チャットに行けばサイト主でないチャット住人から「話したくないから出て行け」とからまれる、チャットで身の上話ばかりする…といった、当時はインターネットが普及していく頃ということもあって、オンラインとオフラインの関係を混同してしまう人たちが世の中に少なからずいたのも事実おり、その寛容さを持ってしてもずいぶん嫌な思いをしたし、ファン仲間も何かしらのイザコザやゴタゴタに巻き込まれたことのある人が多かった。「氷室氏が好きであること」しか共通点がない、しかもその「好き」の形も色々だというのに考えが合わないことに対する「いらだち」と「不満」をインターネット上で爆発させたり会場の近くに呼び出して悪口を浴びせたり…本当にそういう人たちがいたのだ。

 特に氷室ファンの場合、氷室氏自身があまり表に出てこないこともあって氷室ファンの中では「彼のことをどれだけ知っているか。」がステータス化する傾向にあった。それが彼の音楽性や作品に対する話ならまだ良いのだが、悲しいことに「今日の滞在は◯◯ホテルです!」と誇らしげにSNSに書き込む人、家族のtwitterアカウントを見つけてアカウントを2ちゃんねるに晒す人、それをフォローしてメッセージを送る人…「彼のことをどれだけ知っているか」が「どれだけ自分が特別になれるか」と結びついてしまうことも多かった。
 日頃、ファンはアーティストの公(public)の姿を見ているのであり、要は一緒に働いている上司先輩部下の家での姿を知らないのと同じことで、アーティストの私(private)の姿を見ているのではない。たまたま見たり知ったり聞いたりしたprivateは「単なる覗き見」でしかないのだが、そこの区別がつかない人たちが少なからずいる。
 また、CDやDVDは売れて欲しいけど「ご新規さん」が目立つとチケットの良席確保や特別になれる可能性が下がる恐れがあるので、反発する人たちもいる。(私が嫌な思いをしたのも周りより明らかに若く、ご新規さんだと思われたのが原因のひとつだと思われる。)「サポートメンバー」といってライブステージで本人やバンドと一緒にプレイしてくれるミュージシャンに対して「何故か上から目線」の人たちもいる。…残念な話を挙げ始めたらキリがないのだが、もちろん、その一方でとても仲良くなってお世話になっている人たちもいる。ツアーのファイナルで飲み明かす仲間たちや一緒にライブの遠征をして回る友人、妹と結婚した友人までいる。しかし、私も素敵な仲間たちも上述のようなことがあり、10人に1人と仲良くなれるかどうかだというのが念頭にあるのでどうしても警戒せざるを得ないのである。

 しかし、矢沢ファンは違った。みんな「ご新規さん」の同級生に対して握手を求めてきたのだ。

 「ヤザワが好きかどうか」、その一点しかない!!しかもすべて!!しかもみんなヤザワと同じ口調!!

 しかも、ライブが始まると男性も女性もキラッキラとした少年少女のような目をして、時に涙ぐんだりしている。その横で同級生が「Ha〜Ha!」のタオル投げに加わり、へたくそで自分の手許に落ちてこないことにも懲りずに何度も投げて続けても拾ってくれる周囲の優しいファンの皆様方。

タオル投げ


 終了後もZの隣にいた「ねーちゃんノリいいね!」と男性2人と女性1人の3人組に声をかけられた。その3人は中学の同級生で、会場の近くで男性が経営するお店で同窓会をやっている最中を抜けて観にきたという。「そこ(同窓会)に戻るから、君たちもおいでよ。」という3人にZは2つ返事で応じ、同窓会に乱入。終了後は男性が「残りの2人を東京まで送っていくので、君たちも車に乗っていきなさい」という。ヤザワの曲をかけながら横浜から東京まで高速を走らせてくれた。Zと私は丁寧な運転と説明に感謝しながら、この日は帰宅した。

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 翌日の氷室氏のステージの内容はさておき(この日のライブはコメントし難いものがあるので省略する)ファンも酷いものだった。野外フェスなので当然スタンディングだったのだが、私がいた辺りの最前列や前方を確保した人たちは、自分たちの立つ後ろにシートやら新聞紙やらを敷いて荷物を置いていた。「なんだこの非常識な人たちは」と思いつつもライブが始まれば分かるだろうと思っていた。当然、始まれば後ろから押されたわけだが「荷物に触らないで!そこ踏まないで!!チャリティなんだから!!」と訳の分からないことをヒステリックに叫んでいた。

 ス タ ン デ ィ ン グ に そ う い う も の を 持 っ て く る ん じ ゃ な い!!!!(怒)

 (恰好はともかく)紳士&淑女の矢沢ファンの見たばかりの私はあまりの酷さにガッカリしたし、Zもこの日が参加して初めての氷室氏のステージだった感動はありつつもそういうファンを見てちょっとバツが悪そうにしていた。いくら矢沢ファンと氷室ファンの平均年齢が違うと言ったっていい大人だ。酷いにも程がある。

 このとき私は、J-ROCKの世界では70年代から80年代のターニングポイントとして挙げられる2人の男のファン層の違いを真剣に考えた。彼らはファンにとってはカリスマであり、恰好いい男で、憧れの男であることに変わりはない。そう、宗教に近い雰囲気があるのである。

 もやもやと考えた私の出した結論は以下の3点であり、図で示すと以下の通りである。

 1.いずれも宗教
 2.ヤザワ教は「ヤザワが好き」という事実がすべて。神の下の平等がある。
   神側も常にこうあるべきを示し続けなければならず大変。
   →「俺はいいけど"ヤザワ"がね」発言が生まれる。
 3.ヒムロ教は、神をより詳細に知ることが求められる。
   →たまに神様が微笑むのを待つツンデレ向け。

 ヤザワ教とヒムロ教の違い(図)
 (これ、トラックパッドだけで書いて死にそうになったんですが、ペンタブ買えって話ですねすみません。)

 

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 http://kokuban.in/diary/view/1326015986

 

成りあがり

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